独占インタビュー:「Transverse Orientation」演出家パパイオアヌー、日本公演について語る

DIMITRIS PAPAIOANNOU | photo by Julian Mommert

ギリシャの世界的振付家にして演出家のひとり、ディミトリス・パパイオアヌーと私たちは、2019年「The Great Tamer」の公演で来日した際に出会い、インタビューを行った。
2004年のアテネ五輪の開閉会式で演出を務めたパパイオアヌーは、いま最新作「Transverse Orientation」を引っ提げ、埼玉で4公演・京都で2公演を行うため再び来日している。
そんなディミトリス・パパイオアヌーに今一度GreeceJapan.comに語ってもらう機会を得たことは、私たちにとってこの上ない喜びであり名誉だ。
氏と、インタビューの機会を設けていただいた彩の国さいたま芸術劇場に感謝したい。

聞き手:Junko Nagata – GreeceJapan.com


なぜ最新作を「Transverse Orientation」と名付けられたのでしょうか。

Transverse Orientationとは、昆虫が月や光と一定の角度を保つことで進路を調整するメカニズムです。作品のタイトルは私の友人であり、私の作品群にタイトルをつけてくれているアンゲロス・メンディスとともに考えました。私は自分の作品にタイトルをつけません、何故なら劇場で私たちがともに過ごすという冒険のためにはそれがふさわしいからです。人は、劇場の舞台の上では、光との関わりだけでなく、光のような女性的な存在との関わりによって定義づけられるのです。

あなたは日本で行われたあるインタビューで、こうした昆虫は様々な光によって進む方向を見失うのだと答えていましたが。.

そう、まさにその通りです。人が自らの人生で自分自身の方向性を見い出すという問題は、それは大きなものです。そして、そうした必要性の周辺にあるものが、この作品の全てなのです。

今回の作品で、あなたの想いが雄牛の形に結実したのは何故でしょうか。

雄牛は原始的な男性の力の象徴です。そして、雄牛と女性的な力である水との関係-これら二つのエネルギーは、作品を導くとともに、私たちの世界をも導いているのです。

今回のあなたの作品ではあまり多くの色彩が用いられていませんね。

私は、白黒の世界でより力を発揮できるのだと思っています。しかし、今回の作品「Transverse Orientation」には豊かな色彩があります。上演中では強烈なオレンジ色の光と、いくつかの色彩的な驚きを観ることができるでしょう。でも、私は色彩を控えめに使うのが好きですけれども。

「The Great Tamer」日本上演の後、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、あなたの予定や「Transverse Orientation」の公演がキャンセルされました。この時、あなたはどのように過ごされていたのでしょうか。

私にとって、パンデミックの期間はそれほどひどい状況ではありませんでした。私の仕事は壊滅的な状況にはなりませんでしたし、愛する人々を誰も失いませんでしたから。そんな訳で、この期間は私にとってちょうどいい休息の時間となりました。また、自分自身と、自分の仕事と距離を置き、改めてそれらについて考え、再び自分自身に養分を与えることができました。私にとって、この期間はある瞑想の時間となったのです。

このパンデミックの期間の中で、「Transverse Orientation」に何か変化はありましたか。

おそらくあった、と思います。何故ならこの作品は2回に渡って延期されましたから。上演が延期された期間中、私はずっと考え続けていました。これによって、作品が少し解放されたように思います。それまでぎゅっと押し潰されていたものが、よりオープンに解き放たれたのだと。

2020年9月には、あなたはあなた自身ともう一人の俳優の二人だけが出演する作品「INK」を創作発表されています。この作品についてお話いただけますか。

まず初めに、来年この作品を日本で披露することができることを祈っています。世界各国で、来年1月からこの作品の上演が開始される予定です。アテネを皮切りに、世界中を旅することになります。「INK」は私にとってある驚きをもたらすものでした-何故なら、これを創らなければならないと感じたからです。私には、上演が待たれていた「Transverse Orientation」がありましたが、こうした必要からスタジオ入りし、「INK」を制作したのです。初めはちょっとしたインスタレーションを創るつもりでしたが、最後には一つの大きな作品となりました。「INK」は私が抱いていたある想い、光輝く想いから始まった物語ですが、結果として非常に暴力的で闇深いものとなりました。私にとってもこれは驚きで、今再びこの作品のために活動していますが、この作品をとても愛おしく思っています。

来年「INK」を日本で観る機会を待っています。

「Transverse Orientation」の世界ツアーが終わった後、何か新しい作品を準備されていますか。

いいえ、「INK」を携えて、1年間ほど世界を回る予定です。今から2年後に何をしているかは私にもわかりませんが、皆が健康で日々を送ることができることを祈りましょう。その時、私たちは何が起きるのかを知ることでしょう。

あなたの頭の中に、新しい作品についてのアイデアはあるのでしょうか。

アイデアの塊(かたまり)とでも言うべきものはありますが、それは何の意味も持ちません。誰にどんなアイデアがあるかには意味はなく、誰が何をするかに意味があるのです。

ありがとうございました。日本での公演の成功をお祈りしています。

彩の国さいたま芸術劇場ダンス・ラインナップ 2022
ディミトリス・パパイオアヌー「TRANSVERSE ORIENTATION」

日時:
2022年7月28日(木)・29日(金)19:00 開演
2022年7月30日(土)・31日(日)15:00 開演
(*全4公演)
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
チケット(税込・全席指定):
一般S席 7,000円/A席 5,000円 U-25* S席 3,500円/A席 2,000円 メンバーズ一般S席 6,300円/A席 4,500円
※公演時25歳以下対象・入場時要身分証提示
※未就学児入場不可・12歳以下は要保護者同伴

主催:彩の国さいたま芸術劇場(公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団)
助成:Dance Reflections by Van Cleef & Arpels 文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)|独立行政法人日本芸術文化振興会
後援:駐日ギリシャ大使館

京都公演

日時:2022年8月10日(水)19:00 開演/11日(木・祝)14:00 開演
会場:ロームシアター京都 サウスホール
料金:1階席 6,000円、2階席 5,000円
ユース(25歳以下)3,000円、18歳以下 1,000円
主催:ロームシアター京都(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)、京都市
助成:Dance Reflections by Van Cleef & Arpels 文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音 楽堂等機能強化推進事業)|独立行政法人日本芸術文化振興会
後援:駐日ギリシャ大使館、京都新聞

ディミトリス・パパイオアヌー「TRANSVERSE ORIENTATION」特設サイト


[ 企画展「ディミトリス・パパイオアヌー舞台写真展」フォトレポート ]

アテネオリンピックの開会式から最新作「Transverse Orientation」に至る作品の数々を写真と映像で紹介する企画展が、本公演会場の彩の国さいたま芸術劇場で31日(日)まで開催中。これまでの舞台作品から、2004年アテネ五輪の開閉会式が行われたスタジアムで展開される壮大なパフォーマンスまで、パパイオアヌーのイマジネーション溢れる世界を楽しむことができます。作品鑑賞の際はどうぞお見逃しなく。

会期:2022年7月5日(火)~7月31日(日)※休館日を除く9:00~22:00
会場:彩の国さいたま芸術劇場 1階ガレリア ※入場無料

永田 純子
永田 純子
(Junko Nagata) GreeceJapan.com 代表。またギリシャ語で日本各地の名所を紹介する  IAPONIA.GR, 英語で日本を紹介する JAPANbywebの共同創設者。

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