GreeceJapan.com独占インタビュー:WOWOWオリジナルドキュメンタリー「ドルフィン・マン」ハリートス監督

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左:ハリートス監督、右:ジャン=マルク・バール

世界各国から様々な作品が集結し11月3日(金・祝)まで行われた第30回東京国際映画祭で、リュック・ベッソン監督の「グランブルー」のモデルとしてあまりに有名な伝説の素潜りダイバー、ジャック・マイヨールのWOWOWオリジナルドキュメンタリー「ドルフィン・マン」が10月28日(土)特別上映された。

「グランブルー」でマイヨール役を演じたジャン=マルク・バールをナレーターに迎え、友人・知人の証言や貴重な映像・資料をもとにマイヨールの人生を丹念に追ったこの作品を監督したギリシャのレフテリス・ハリートス監督から「ドルフィン・マン」について、また監督自身についてお話を伺った。

聞き手:永田純子(GreeceJapan.com)

どうして「ドルフィン・マン」を撮影しようと思われたのでしょうか。

そもそも始めはギリシャ・ドデカニサ諸島のカリムノス島で「スフンガラデス」と呼ばれる海綿採り漁師についての別の映画を制作しようと準備していました。残念ながら、この映画は制作資金の問題から断念したのですが、最終的にプロデューサー、そしてフランスの制作会社・アルテ社がジャック・マイヨールに関するドキュメンタリー映画に資金を提供することになり、これを私が監督することになったのです。

マイヨールは、かつて信じられていたように、我々人間は肺に悪影響を与えることなくさらに深く海に潜ることが出来ると知っていた彼ら海綿採り漁師たちとも親交がありました。その漁師たちの中でも、ギリシャ・ドデカニサ諸島のシミ島で名を知られた海綿採り漁師・スタシス・ハジス(1878 – 1936)とも彼は親交がありました。

この映画であなたはジャック・マイヨールの生涯に近づくことで、彼の人生を知り、その親族、友人知人、そして多くのダイバーと知り合う機会を得たと思います。そんなマイヨールのキャラクターの何があなたをより深く魅了したのでしょうか。

一昨日行われた特別上映の席でもお話ししたかと思いますが、マイヨールは心と身体との間で繰り広げられるある種の戦いをひとつに結びつけようとした人間であったと思います。禅に親しみ、ヨガに励み、ヨガがどのように身体に、また無呼吸状態の身体に、そしてフリーダイビングに影響を与えるのかを理解しようと試みていたのです。

また同時に、欠点や問題を抱えたひとりの人間でもありました。女好きで、世界中を飛び回り、自分の子供たちを捨てた男…そんな様々な要素と、複雑な人間性が私を魅了したのではないでしょうか。彼の一生はまさにハリウッド映画そのものです。その内に情熱、記録、争いといったあらゆるものを秘めていました。

しかし何よりも私が気に入ったのは、彼が海をこよなく愛していたということです。そしてその愛がこの映画の最も重要なテーマなのです。この映画は海について、また海の傍らで生きる人間たちについて描いた映画なのです。

この映画の撮影のために日本、ギリシャをはじめ世界各国を旅されたと思います。ジャック・マイヨールはどのように日本とギリシャという二つの国と関わっていたのでしょうか。

マイヨールは幾度も日本を訪れ、長い期間滞在していました。初めて日本を訪れたのは1969年(昭和44年)で、それ以来時が流れるにつれより長く過ごしたいと考えていたようです。そんな彼が最後に日本を訪れたのはこの世を去る直前のことでした。友人である成田均氏にマイヨールは日本で死にたいと言っていたといいます。

私が思うに、人生の最後の10年で、かつて家族を捨てたマイヨールは友人たちとの交流、彼を愛する日本の人々からの想いを通じて新たな「家族」を見つけたのだろうと思います。日本には彼が求めるものが二つともあったのです。名声、そして友人たちの愛情が。

翻って、彼はギリシャとはそれほど多くの接点があった訳ではありませんでした。大きな出来事としては、70年代にギリシャを訪れた際、先に述べたギリシャ人海綿採り漁師のスタシス・ハジスと知り合ったことでしょうか。

今回の撮影で、残念ながらギリシャでの取材のうち映画からカットせざるを得なかったエピソードもあります。

それはギリシャ語で「スカンダロペトラ」と言われる海綿採り漁師たちにとってはある種の誇りとでも言うべき競技なのですが、石を抱え、その重みで海中深く潜るというもので、かつては彼ら漁師たちの間で日常的に行われていたものです。映画に出演してくれたギリシャのニーナという少女は、このスカンダロペトラの世界的な選手なのです。

我々は撮影のため、ギリシャ・ドデカニサ諸島のカルパトス島で行われた大会に足を運びましたが、悪天候で記録が出なかったため、やむなくこのエピソードを映画に使うことを断念しました。

これまであなたは数多くのドキュメンタリー映画を制作して来ましたが、長編のフィクション映画を撮影することは考えられていますか?

私はフィクションから監督としてのキャリアをスタートさせました。今のようにドキュメンタリーに携わる以前は、テレビでフィクション作品を制作したこともあります。ですから、当然フィクション映画を制作することを考えていない訳ではありません。もちろんドキュメンタリー映画は好きですよ、もしかしたらフィクションよりもっとね。

フィクションに関しては頭に思い描く計画がない訳ではありませんが、いずれにせよスポンサーが見つかり次第ということになります。

今のギリシャでは、映画制作に足る多額の資金を得ることは困難です。ドキュメンタリーのいいところは、もしギリシャ国内だけで資金が調達できなかったとしても、外国でスポンサーを見つけることが可能だという点です。外国人の俳優を起用しなければならなかったり、外国で撮影をする必要があったりと、フィクションでは資金調達はさらに難しくなります。

私がドキュメンタリーで気に入っているのは、様々な資料や写真・映像といったものを活用しながら、一つの物語を紡ぐことができる点です。フィクションなら、俳優たちと仕事が出来る点ですね。

いずれにせよ、今のところ具体的な計画はありません。何しろ「ドルフィン・マン」の撮影が終了したのはほんの2か月前のことで、今はこうして各地の映画祭へと走り回っているところですから。

今はギリシャ国外で活動していきたいと考えています。それに私にとって、日本は私を捉えて離さない、私を魅了する何かがある、他の多くの国より興味を惹かれる国だと、そんな思いを持っています。できれば日本で何か映画制作のアイデアを見つけたいですね。そうしてここ、日本で撮影ができたらいいなと。日本は、これまで私が訪れた中でもっとも私を魅了した国ですから。

監督は日本の映画がお好きと伺いました。具体的に、どの映画がお好きでしょうか。

ええ、大好きです。好きな作品は沢山ありますが、その中から特に4つの作品についてお話しましょう。

まず、黒澤明監督の「乱(1985年)」、それから小津安二郎監督の「晩春(1949年)」を挙げたいと思います。そして大島渚監督の「愛のコリーダ(1976年)」ですね。また、最近あるフランスの映画祭で観た60年代の映画の中で、新藤兼人監督の「裸の島(1960年)」がとても気に入っています。

中でも小津安二郎監督は日本の映画監督の中で私がもっとも愛する監督です。もちろん昔の映画だけでなく、今の日本映画も大好きですけれどもね。

監督はどのようにして映画の道に入られたのでしょうか。

ギリシャで学校を卒業後、他の仕事に就くことなくすぐに映画の道に入りました。初めの頃は物理学に関わりたいと思っていました。自然科学の分野に興味がありましたから。でも、それよりももっと映画のことが好きだったので、最終的にとある映画学校に行くことを決めたのです。

私の父は映画評論家です。これが父の本業ではないのですが、現在まで50年間に渡って活動を続けています。そんな父の影響もあって、私は小さい頃からたくさんの映画を観て来ました。10歳になる頃には、フェデリコ・フェリーニやイングマール・ベルイマンといった監督たちのクラシック映画はみんな観てしまっていました。

映画監督というのは実に難しい仕事だと私は思っています。よく言うのですが、映画とはチェスのようなものだと。ルールを学ぶのは簡単でも、優れたプレーヤーになるには数々のゲームを通じて多くの経験を積まなければならないと。

長編処女作を完成させるまで、それは長い時間がかかりました。あきらめた方がずっと簡単だったでしょう。安定した仕事もなく、今力を注いでいることが成功するか否かさえわからない。それでも、やりかけたことを放り出すなどできるはずもありません。

「ドルフィン・マン」のこれからの予定についてお聞かせください。

ギリシャ国内では、今年11月からギリシャ北部の大都市テサロニキで行われる第58回テサロニキ国際映画祭で上映後、来年1月から各地の映画館で上映を予定しています。映画祭への参加としては、既に先月オーストラリアで上映されたほか、カナダでの映画祭への参加を予定しています。

日本の観客の皆さんには是非この作品を観ていただきたいと思っていますが、現在日本とアメリカで一般公開に向けて配給会社との話し合いを持っているところです。

またテレビ放映のため、78分の通常版のほかに60分の短縮版も既に制作しています。

今日は私たちGreeceJapan.comのインタビューを受けていだだきありがとうございました。

こちらこそお礼を申し上げたいと思います。何より、私にとって今回一番の驚きは、東京でこうして出会い、ギリシャ語でインタビューに答えることができたことでしょう!

(インタビュー:2017年10月31日/東京)

[ 公式トレーラー ]

WOWOWオリジナルドキュメンタリー「ドルフィン・マン」公式サイト

WOWOWオリジナルドキュメンタリー
ノンフィクションW ドルフィン・マン ~ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ
ナレーション:ジャン=マルク・バール
11月26日(日)夜8:30 [WOWOWプライム] にて放送!!
番組HP http://www.wowow.co.jp/detail/109974

 

    永田 純子

    永田 純子

    GreeceJapan.com 代表。またギリシャ語で日本各地の名所を紹介する  IAPONIA.GR, 英語で日本を紹介する JAPANbyweb 、および 英語版ニュースのGreek.world の共同創設者。

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