しがしが留学記:マケドニア地方を旅して-友人のポンディアキ・リラ工房

Γεια σας(ヤア・サス)!皆さん、こんにちは!ギリシアはテッサロニキ留学中の福田耕佑です。今回もギリシアの山間部マケドニア地方を旅した時のことをお話したいと思います。今回私たちが訪れた街はプトレマイダ(Πτολεμαΐδα)といいます。プトレマイダは西マケドニア地方のコザーニ県(Νομός Κοζάνης)の中に位置し、観光名所が豊富にあるというわけではありませんが、中心部は公園や歩道がきれいに整備されており、全体の静かな雰囲気の中にも人々の活気があってとても住やすそうな町でした。今回この街を訪れたのは、ポントスのギリシア人の友人が「コッキメロン」(Κοκκίμελον)という名前の「ポントスのリラ」という民族楽器の工房を経営しており、こちらを見学させてもらうためでした。

ポンディアキ・リラ

上の写真で見ていただいたように、ポントスのリラはバイオリンのようないわゆる擦弦楽器です。ケメンチェ(κεμεντζές)やポンディアキ・リラ(Ποντιακή λύρα)と呼ばれ、黒海沿岸のポントス地方に歴史的な起源を持つポントスのギリシア人のシンボルとしての意味をも有する民族楽器です。今でもポントスに起源を持つポントスのギリシア人の中にはこの楽器を学ぶ人がたくさんいて、この楽器が演奏されるコンサートも頻繁に催されています。このようにポンディアキ・リラは伝統的な民族楽器ですが、今尚ポントスのギリシア人のアイデンティティと深く結びつき、ポントスのギリシア人の生活の中で深い意味を有するものとして生き続けています。

私はと言いますと、ポンディアキ・リラに限らず、私はゼロから楽器を作っていく過程や楽器の工房というものを初めて見て大きな感銘を受けまして、今回の体験を是非皆様と共有できればなぁと思います。

工房「コッキメロン」入り口

テッサロニキからコザーニに一度寄り、バスに揺られること二時間、プトレマイダにやって来ました。そしてお洒落な中心街を抜けて更に歩いていると、ポントスの協会や学校が並ぶ地区に一際きれいなお店が見えてきました。ちなみに、店名の由来にもなっているコッキメロン(κοκκύμελον)はポントス方言でプラム(スモモ等の総称らしい)を指すそうです。

 

店内には美しくリラが並べられており、友人のヴァシリオス・パパドプロスさん(Βασίλειος Παπαδόπουλος)が奥さんと一緒に迎え入れてくれました。彼は八歳の時からリラを学び始めて自分で演奏するようになって約三〇年、そして今では自分で演奏するだけではなくてオンライン教室で世界中の人にリラを教え、また工房を構えてその手でリラを作り始めたのでした。この工房も今では八年を迎え、数百本ものリラをこれまで作ってきました。

しばらく色々お話したりコーヒーを飲んだりした後で、実際に彼の手によりリラが生み出されている工房を見せてもらうことになりました。

 

まずは、材料について説明してもらいました。まず全ては写真の丸太から始まるそうです。ちなみにこの丸太はプラム(コッキメロン)だそうです。リラは木で作られているのでこのような丸太から始まるのは当然なのかもしれませんが、完成品しかこれまで見たことがなかったので、実際のほぼ切り出されたばかりの丸太を見せられると、本当にこれがリラになっていくんだとびっくりしました。

この丸太を直方体に加工し、また部位に応じて様々な種類の木材を組み合わせていきます。この過程でアカシアや柳、またカエデや桜等の木材が使用されます。また弦はモンゴルの馬の尻尾を輸入して使っているそうです。どの部位にどの材木がいいのか、またそもそも材料としてどこの木材や材料がよいのかも注意深く試行錯誤しながら研究したそうです。

 

次に切り出して加工された木材がどのようにして実際になっていくのかを説明してもらいました。大きく二つの方法があるそうで、一つ目は直方体の木材をリラの形に削り出して作っていく方法で、二つ目はそれぞれの部位を別々に用意して組み立てていく方法です。てきぱきと説明してくれるので何だか簡単そうに感じてしまいますが、何年もかけて試行錯誤した末の現在です。

 

こうしてリラが完成しました!ここでお見せしたリラは伝統な方法で作られた伝統的なリラでした。しかし、このヴァシリオスさんの大変興味深い試みの一つが、「エレクトリック・ポンディアキ・リラ」或いは「エレキ・リラ」とも言うべき、アコースティックではなく「エレキ」なポンディアキ・リラを開発と製造していることです。ギターだけでなくバイオリン等の楽器にも既にエレクトロニック化された楽器があるのだから、ポンディアキ・リラだってこれが可能なのではないか、と考えたところから始まったそうです。大学ではエンジニアリングを研究したそうで、そこでの経験も大いに活かされています。このような「エレキ・ポンディアキ・リラ」を作る試みは世界で初めてだそうで、伝統的な製法や奏法を守りつつも、常に新しいものを探求しようとする中での斬新な試みだと言えるでしょう。では実際に、製品になったリラを見ていきましょう。

 

とても綺麗ですね。いい音が出るのはもちろん前提ですが、楽器の見た目が美しいのもまた重要な要素だと語っていました。楽器の形状にも工夫を凝らすと共に、彫刻等によって頭部や本体に施された模様や図案もとても美しいです。これらもヴァシリオスさんが図面を引いて考えデザインしたものだそうです。

 

そして上の写真がヴァシリオスさんオリジナルのエレクトロニックなポンディアキ・リラです。こちらも基本的に内部は木で作られていますが、内部に電子楽器にするための機械やバッテリーが内蔵できる仕組みになっており、リラの裏面にはこれが明確に表れています。一見するとこれらが木材で作られているようには全く見えませんが、これは表面に一種の塗装が施されているからです。エレキギター等と一緒でアンプやヘッドホン等に接続して演奏します。つまり、音響機器を接続しないとリラからは音がでないので、室内でも周りを気にせずに演奏することが可能となっています。大変面白い試みだと思います。

動画  実際にリラで一曲引いてもらいました!

 

今回は以上になります。ヴァシリオスさんは最後に、ポンディアキ・リラを学ぶことを通して歴史的故郷のポントス地方とのつながりを思い、そして外国人やまたギリシア国外に住むギリシア人たちがギリシアと繋がっていることを嬉しく思っていると言っていました。多くの苦労をもってスタートアップは順調にいき、工房では多くのリラが生み出されてきましたが、また二十年三十年後、エレクトロニック・ポンディアキ・リラのような新しい試みを行いつつ、リラを通してギリシアだけでなく世界の人々に貢献していきたいとう夢も語ってくれました。

大切なことをわすれていました。彼のオンライン・レッスンですが、スカイプを通してどこでも授業を受けることができます。新しいことに挑戦しつつも伝統的な手法や奏法を守ることを常に意識し、英語でもギリシア語でも丁寧に授業をしてくれます。ご興味のある方は、授業料や授業時間はヴァシリオスさんに相談してみてください。また彼が制作したリラの販売も行っており、世界中どこにでも送ってくれるそうです。

HP: www.pontianlyra.gr
FB: お店のFacebookのページです。
ヴァシリオスさん本人のFacebookのページです。更にリラの演奏等も見ることが出来ます。

多くの人がこの美しい楽器に関心を持ってくださることを願います。それではΓεια σας(さようなら)!

福田耕佑のテッサロニキ「しがしが」留学記:過去記事はこちらから!

Photos:筆者提供


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福田 耕佑

福田 耕佑

テッサロニキ・アリストテリオ大学、哲学部・中世及び近現代ギリシア学科に留学中。専攻はニコス・カザンザキスを中心とした近現代ギリシア文学・思想史。ギリシアと言えばアテネのアクロポリスやエーゲの島々が有名だが、ギリシア第二の都市テッサロニキから、一緒にギリシア語勉強中の妻との生活模様や北ギリシアの情報について不定期にお届けします。「しがしが」はギリシア語でσιγά σιγάで、「ゆっくり」という意味です!

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